クレーン(2)

前回までのあらすじ
俺のブサ ターボが流れ星になって浜名湖に落ちる夢を見た。
びっくりして飛び起きたら隣に新垣結衣が寝ていたので今までのことは全て夢だったと納得した。

…はずもなく。
しばらくすると、コケた音に気づいて近所の人が出てきた。
「ああ、ここはねえ、よく落ちるんだよね。こないだもずいぶん先まで車が飛んでいって」
「遠くて深かったんでなかなか引き揚げられなくてねえ」
「このくらいならまあ簡単だよ、バイクだし」
「怪我もなくてよかったねえ」
慰めてくれる気持ちはありがたかったが、俺のブサ ターボはあわれ水の中。
「はあ、どうもお手数をおかけします」
泣く気にも笑う気にもならず、俺はただ意気消沈していた。


浜名湖は海水だ。
エンジンに水がまわればアウトだろうし、タービンが水を吸い込んでブローしているかもしれない。ウォーターハンマー現象でタービンブレードがひん曲がったり、水に浸かって急激な温度変化でハウジングが歪んだり割れたりすることもある。なによりコンピュータがショートしていたらおしまいだ。
ターボなんてのは極論すれば、つけるだけなら難しくは無い。ようは切った貼ったの工作なんだから。その制御をどうするかが肝心なところで、インジェクションを使うターボの出来の良し悪しはコンピュータにあると言っていい。
バカだアホウだと言っていたMCXpressのターボキットだが、このサブコンは少なくともちゃんと仕事をしていた。
サブコンだけ買ったとしても、イチからマップを作るなんてどこでできるっていうんだろう。
…もうダメかもしれない…。
俺は転んだ拍子にポケットから落ちて傷だらけになった携帯電話を拾い上げ、電話を3本かけた。
1本目は近所の人に聞いて、レッカー屋を呼んだ。手馴れたもので「ここのレッカー屋が来るのが早いし安いよ」とオススメ情報までもらった。
次に電話をしたのはナカミチさんのところだ。
ついさっきバイクを受け取ったばかりのナカミチさんに電話をするのは気が重かった。
それでもなんとか生き返らせなくちゃ、これがホントの水の泡だ。
状況と場所を話すと、ナカミチさんは驚いたようだったが、思ったよりも冷静に「2時間くらいで行けるよ」と言ってくれた。
レッカー屋とナカミチさんを待つ間に、たっぷり時間がある。最後に電話をかけたのは女房のところだ。
このハヤブサを買ったとき、一括じゃ払いきれなかったのでローンを組んだ。
そのローンの金額は女房のパートの年収と同じだった。
言ってみりゃ「バイクを女房に買ってもらった」ようなもんだ。
それが走るたびにコケていて、しまいにゃ浜名湖に落としたときたもんだ。
なんて言い出せばいいんだろう。どう言おうか考えてる間に女房が電話に出た。
「えーと… 悪いニュースがあります」
「えっ、何、悪いニュース?」
「ああーうん。実は」
あらましを話し終わると、呆れたように女房が言った。
「で、ケガは」
「いや。大したこと無い。ちょっと擦りむいて、打ち身ができただけ。青あざくらい」
「なんだ。悪いニュースなんて言うから何事かと思ったよ。あんまり驚かせるようなこと言わないで。バイクはどうするの」
「レッカー呼んだ。ナカミチさんも取りに来る」
「そう、じゃ電車で帰ってくるのね」
「うん」
「まあ仕方ないね。ケガが無かっただけ良かったよ。バカだけど」
「ああ」
「じゃね、気をつけてね」
「はい」
…いい女房だ
まことによくできた女房である。
俺はこの先一生、絶対に浮気などなるべくしないと浜名湖に浮かぶ月に誓ったのであった。
秋の風は寒く、海水で濡れたズボンは冷たく、水中のバイクはなによりわびしかった。
近所の中学生くらいの男の子が、人なつこく俺に話しかけてくれたのは慰めになったが。
あのヤンチャそうな子はバイクに乗るようになるかな。
…ならんだろうなwww
「俺んちの前の道ってさあ、カーブになっててしょっちゅう車とか海に落ちるんだよ。一度バイクが落ちたことがあってさあ。俺も助けにいったけどwww」
程なくしてレッカー屋とナカミチさんが到着した。
レッカー屋は来るなり「揚げられないかもしれんよ」と不吉なことを言った。
「こないだ落ちたクルマは遠すぎて揚げられなかった」
「で、どうしたの?」
「次の日、船のクレーンで揚げて陸近くまで持ってきて、ワイヤーで引っ張ったよ」
その後、そのクルマが直ったかどうかは聞かなかった。レッカー屋はそんなことまで知らないだろうし。
レッカー屋は岸から下を覗き込むと
「このくらいなら大丈夫だな。近くで良かったじゃないか」
と言った。
「ええ、まあ」
レッカー屋が準備を始めると、俺はてきぱきとアウトリガーを引き出し、足で蹴って接地を確認した。
レッカーの車載クレーンはバイクを吊るにはずいぶん大層なものがついていた。
まあ、これでも水を呑んで3tにもなったクルマを揚げるのは難しいのだろう。
俺はスリングベルトを持って海に降り、ベルトをかけられそうな場所を探した。
重心に近くて折れたり外れたりしない所。
シートをはずして、フレームにかけることにした。
装備重量でも300kgもないバイクは、軽々と上がった。そしてそのままナカミチさんの乗ってきた軽トラの上に乗せた。
レッカー屋が到着してから乗せ終わるまでに、15分も経っていなかった。
結局、揚げてる時間よりも連絡先や費用の振込先について話をしている時間の方が長かったくらいだった。
俺は近所の人にお礼を言い、ナカミチさんの軽トラに乗り込んだ。
俺はげっそりして意気消沈していた。
さっきハヤブサを乗せてきた軽トラに、またハヤブサを乗せて帰っていく。
ついでに俺もその軽トラに乗ってるわけだ。
ハヤブサは水浸しになって。
ナカミチさんがいかにも気にしていない風なのが慰めだった。
あまり話しかけられなかったこともありがたかった。
家につくまでの間、俺は黙って外を眺めていた。
関連エントリ:
クレーン(1)
クレーン(3)

8 thoughts on “クレーン(2)

  1. 新垣結衣って毛深そうじゃないですか?
    それもまたいいけど!
    僕はXJRを駐禁でレッカーされたことがあります。。。

  2. 浮気はしないほうが良いと思います!
    奥様を大事にされたほうが良いと思います!
    じょしこーせーへのセクハラも…(^^;。

  3. ガッキーなら今、俺の横で寝てるけど、それにしてもnomadのアニキ大変でございますたね。奥様すばらしい。浮気したら死刑400年ですね。ウチなら地獄の女帝にリンチされます・・・

  4. > 佐藤
    ウチの女房の男前性能は異常。
    基本ツンデレ
    > udon
    毛ェ濃そうかー?? いや、俺は知ってるんだが、印象的にー
    むしろ濃いからウレシイっていうのはガッキーについてはアリかもしれん
    てか「この子は薄いだろう」ってのは誰?
    > しが研
    そうとも、もちろん浮気なんかしない方がいいんだ。
    しかしな、戦争反対!台風反対!地震反対!って言ってて避けてくれるか?
    な、そうした脅威に対しては備えが必要なんだよ。
    お前は世間っちゅーもんを良く知らないようなんで特別指導が必要だ。あとで生徒指導室に来なさい。
    > たけちよどん
    たとえ結果が分かっていても男には挑まねばならんときがあるんスよ。

  5. ずっと考えてました。
    榮倉奈々でどうでしょう。
    釈由美子と相武紗季も候補に挙がったのですが、どちらも手入れが行き届いてそうなので…。宮﨑あおいは榮倉奈々と系統は似てますが濃いですよね。間違いない。

  6. > 榮倉奈々
    イメージ検索でググりましたがな。
    http://jp.youtube.com/watch?v=kHsfrNO9vMY
    なんですかこりゃ、チビッコじゃないですか
    毛ェが薄いとかそういう以前に赤飯たいたのかっつーはなしですわ
    ミニスカでパンツ丸出しですべり台滑りすぎてオシリがマックロですよ
    こぉゆうのは俺はダメだなー
    ゴージャス宝田とかは好きなんでロリ嫌悪ではないハズだけどもー

佐藤@スケーター にコメントする コメントをキャンセル

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