ヘヴィな話 -2-

吾妻ひでおの「失踪日記」をたけくまメモ経由で買った。
重い話を軽いタッチで描くユーモアの切れの良さは古くからの吾妻ひでおファンとして、本当に楽しめた。
しかし、このゴールデンウィークに浜松に帰ると、ここで紹介されているエピソードの現実を聞くことになった。
アル中の話……


僕の従兄弟がアル中で入院しているという。
その従兄弟は僕の一つ下で、僕の実家から歩いて15分ほどの近所に住んでいた。
真面目な男で、きちんと大学も出て官庁に勤めていた。子供の頃は泊りにも行って遊んだりしていたこともあり、奴のことはよく知っていると思っていたので、そんなことになっているとは、ひどく驚いた。
僕みたいにいろんな無茶をするようなこともなく、趣味も読書くらいしか思いつかないような固い男だ。
奴は二人兄弟の長男で、僕は大人になると、この固い兄の方は敬遠して、バイクに乗ったりスキーをしたりする、ちょっとお人よしの弟の方とよく遊んだ。
僕が結婚してからはそれほど頻繁に行き来することは無くなったが、奴がそれまで酒を飲むということさえ知らなかった。盆や正月の挨拶に行ってお屠蘇を酌み交わすときも、そりゃあ顔が赤くなるくらいはあったかもしれないが、それさえ想像の中の話で、「酔う」姿を見た記憶が無い。
その奴が、アル中なんだという。
この会わなかった何年かの間に、奴に何があったんだろう。
弟の方は、すったもんだの末、年上の奥さんをもらって家を出て行った。
奴の方は浮いた話の一つも無く、40過ぎても独身のままひっそり暮らしていた。
僕が知らないところで奴は変わっていき、知らないところでアル中になっていた。
勤め先は病休にしているようだが、どうも経過は良くないらしい。
何度も出たり入ったりしているということだ。 …脳萎縮もしているようだ。晩年の中島らもや、失踪日記の表紙の裏、「裏失踪日記」に描かれているAA(アルコホリック・アノニマス)の司会の女性みたいになってると聞いた。
もう25年も前に事故で亡くなった叔母さんを探しに近所の家を訪ねたという。
「こっちに僕のお母さん来てませんか…?」
叔母さんが亡くなって、25年かけて、奴は壊れていったんだろうか。
残酷に聞こえるかもしれないが、僕は、奴はもうこっちの世界には戻っては来れないだろうな、と思った。戻ってこなくちゃいけないほど大切なものはもう失ってしまった。失ってしまったから、奴は新しい大切なものを作ることができなかった。
奴は飲まずには生きていけなかったのだと思う。
弟みたいに逃げ出すこともかなわないまま、生きていくには麻痺させなくてはいけない痛みをずうっと抱えていたんじゃないだろうか。

2 thoughts on “ヘヴィな話 -2-

  1. □立て続けに、重いですね……。(肉体的なモノのみならざる) 生と死について、考えてしまいます。今おれは生の方向に振れていますが、意外と容易に死の世界にも踏み込めてしまうんですよね。
    去る者になるか、残される者になるか。紙一重ですが、大きな隔たりがあるようにも感じられます。

  2. 自分も「失踪日記」は読んだんですが、作者の意図で
    サラッと読ませるように書いてるわけですよね。
    本人や周りにとってはヘビィなんだろうけど。
    短いGW中に随分と...ですよね。

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