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クレーン

僕は「移動式小型クレーン免許」と「玉がけ免許」を持っている。
玉がけというのはクレーンに物を吊る時などにワイヤーで固定する技術のことで、クレーン免許を取る時に一緒に取るものだ。
しがないIT(イット)営業マンの僕がなんでそんな免許を持っているかといえばそれもこれも皆バイクのためだ。
僕は当時、GSX-R750に乗っていた。そう、例の「新幹線に敗れた失意の」GSX-Rだ。
僕のテリトリーは三ケ日の農業道路だった。……


この道路は豊橋から湖西に抜ける多米峠の付近のミカン山の手入れのために作られたものらしい。
これが何の利権か知らないが無闇に上等にできていて、僕ら峠コゾウの格好の「練習場」になっていた。
僕ら峠コゾウは軒並みバカばっかりだったので、この峠を行ったり来たりすることを「練習」と呼んでいた。何の練習かは聞くな。慈悲の心を持って。
僕は毎週そこへ「練習」しに行っていた。当時の会社から20分ほどの場所なので、時折、会社の帰りにもそこへ足を運んだ。
この峠はご多分に漏れずアップダウンの多い低速コーナーの連続する道だ。最高速度は170kmくらいしか出ない。アベレージ速度は60kmくらいだろうか。ちゃんとラップタイムなど測ったことがないのでそのへんは適当だ。
行けば誰かいて、その誰かとどちらが速いか走るだけだ。どちらが速いかどうかというのも厳密に言えば本当のところわかりゃしないのだが、僕らはバカなのでそれで十分満足していた。
でまあ、案に違わず、バカの小僧の僕はそこでしょっちゅう転んでいた。
その日は僕はたしかホンダXE75を追いかけていた。ナナハンがミニバイクと勝負するというのもいかにもバカみたいだが、こういう低速コーナーばかりの狭いコースならば十分勝負になるものだ。むしろコーナリングスピードではミニバイクに分があるのだ。
僕は本気になってそのバイクを追いかけていた。
高速コーナーや直線で抜いても意味が無い。なんとしても下りの低速コーナーで勝負したかったのだ。
下りの左コーナー。
突っ込みで勝負する。
ブレーキを我慢した。
抜けると思った。
XEの右横に出た。ヤツはもうバンクしてコーナリングを始めている。僕はブレーキをそこでかけた。アクセルを閉じ右手のブレーキを握る。膝でガソリンタンクを挟んで前にずり上がるのを抑える。
隣のバイクを見る。
XEはダウンマフラーだった。タケガワかどっかのキットを組んでるのかな。
バイクをバンクさせようと。
曲がらない。
そりゃ曲がりっこありませんてブレーキしてたら。
あう。
ブレーキ。
コケた。
握りゴケだ。
フロントからすくわれるようにバイクは左にコケた。
僕は膝を打って転がった。
バイクはコケたまま下り坂を勢いよく滑って行く。
「あ、そっち行くなキャッツアイが」
バイクは道路に埋め込まれたキャッツアイを蹴飛ばし、その衝撃でキャッツアイがめくれた。
「あ、そっち行くな下水溝が」
山水を流すための下水溝が道路沿いにあって、そこにはまるとバイクの修理代がかさむ。
バイクには行っちゃいけない方向に走る、という法則がある。
本田宗一郎がそう決めた。国土交通省の指導のもと、ホンダとスズキとカワサキとヤマハは「行っちゃいけない方向に走る装置」を工場で組み込んでいるのだ。
僕のバイクは下水溝どころではなく、山水を溜める取水枡の中に水しぶきを上げて落ちた。
コケた痛みをこらえて駆け寄ると、僕のバイクはリヤタイヤを上にして取水枡いっぱいに溜まった水の中にぶくぶくと沈んで行くところだった。
僕は友達のバイクに乗って、近くの僕の勤めていた会社に向かった。そこにはクレーン車があるのだ。
僕は会社のクレーン車を持ち出して現場にとって返すと、手馴れた動作でクレーンのアウトリガーを出し、ブームを伸ばして旋回し、ワイヤーをバイクにまわしてフックにかけた。操縦レバーを握る僕の操作はそれまでで一番鮮やかだった。
「オラーイ、オラーイ」と手を回す友達の誘導で僕はGSX-Rを吊り上げた。
大漁大漁、と僕は首尾のよさに笑ったが、ただ、それを見物している峠小僧の連中たちの目はこころなしか呆れていたようにも思う。
ライダーになって25年。まじめに四半世紀もライダーをしていれば、クレーンでバイクを吊ることの一度や二度はあるものだ。
あるよね?
—-後日談—-
それからしばらくしてその峠は二輪車通行禁止になった。
僕らはぶつくさ文句を言ったが、自業自得だ。小僧どもがバカスカコケて、しょっちゅう救急車が出ていたらしいから。
ホントに峠小僧というのは迷惑な連中だった。
今はもう滅びてしまったけれども。

コメント:6

ss 2006年8月18日

くるまなら2かいつられたなあ
車といえば、松スピのアレいいとおもいますよ。、MTしかないところが男らしい。このご時世にターボノンタとの価格差も微々たる物。
がんばって、言いくるめてください。
最近出た新車で唯一乗ってみたいと思った国産車ですね。

nomad 2006年8月19日

うはははは、
まあなんのかんの言っても丸め込んで買っちまおうと思っております。
> マツダスピード アテンザ
どのように外堀を埋めるべきかとか、作戦をいろいろ考えている最中です。
いやしかし<自らクレーンで吊る>とこらへんにおもむきを感じていただければ幸いですwww

佐藤@スケーター 2006年8月20日

いやはや、輝かしい過去ですなぁ(^^; オレンジロードも主に四輪対策で道路に溝掘って(グルービング?)走りにくくなってきてるようです。
ところで、アテンザ買うんですか?。ウニモグはやめちゃったんですね?(w

nomad 2006年8月20日

ウーニーモーグー!!!
そらもうそういうの欲しいに決まってますけど、呪車は「今は」ちょっと…
アテンザでさえハードル高いんですから。
妥協して奥さんの好きなヤツ適当に買わせておいて機嫌とっておいて、自分用の呪バイクを買うという手法もないじゃないのですが…

shigw 2006年8月21日

僕も「移動式小型クレーン免許」と「玉がけ免許」を持っていますが、今のとこバイクは吊った事がないです。
持ってて良かったと思える日が来るのを楽しみに待ちたいと思います。

nomad 2006年8月22日

> 持ってて良かった
そりゃもう備えあって憂いなしと言うじゃないですか。
きっとそのうちありますよ。
僕はこの後2回吊ってますから(にっこり)

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